デンバー・アトランタ・・・文化祭は大にぎわい。米国で書の国際交流。
「JLC国際文化交流使節団ーデンバー日本伝統文化祭94ー」が11月11日から18日までアメリカ中西部第一の都市、コロラド州デンバー大学で開催された。

書道関係者は11名で、青森県からは石山景巳さんと私と二名が参加した。
16部門100名の参加は、家族的な温かい雰囲気で行動がしやすかった反面、大変責任の重い旅でもあった。

フェスティバルの前日、アメリカの5大美術館の一つであるデンバー美術館で書の説明と揮毫(きごう)があった。

同時に美術館の見学も出来た。東洋の美術品が並び、日本の鎧(よろい)、清光と銘のある刀、鍔(つば)等が展示されていた。その中にひときわ目立って棟方志功氏の版画四点と「無」と書いた書一点があった。さすが世界の棟方様だと改めて画伯の偉大さを感じ、しばしその場から立ち去ることが出来なかった。

午後からは、いよいよデンバー大学でのジャパンフェスティバルの準備である。日本から持参した作品を会場に展示する。私は二尺×八尺の大作と茶掛けである。参加し人たちそれぞれの作品を展示する。ボランティアのアメリカ在住の人たち、日本からのスタッフと、それぞれの部門の人たちの作業が進む。

13日「日本伝統文化祭九四」の開始である。大学の行事と言うので」、小学生から一般まで大変な人出でにぎわった。学生は授業の一環ということもあり、各部門時間が決められ想像以上の混雑で、子供たちの希望をかなえての指導は十一名の参加者がありてんてこまいだった。
生徒の中には、どこで手に入れたのか、選挙の時に使うような日の丸に必勝と書いた鉢巻をしていた女の子もいた。また高学年の生徒は「純潔」と書きたいと二文字毛筆でたどたどしく書き満足げだった。

金髪の人形のようなかわいい子、ちぢれ毛を細く三つ編みにした黒人の子、鼻が天井をみた大きな目のキューピーのような男の子。どの子もかわいく、それぞれ希望で書いた好きな字を半紙一杯に書き、大事に両手で持って歩いていた。
古武道で参加された笹森建美先生は、笹森順造先生のご子息とのこと。小野派一刀流の継承者とうかがっている。お話の機会があり今日の舞台で使用している刀はお父さんの作品だといわれ、遠く離れたデンバーで父の刀と会えたことが不思議でならなかった。

デンバーはアメリカ中西部随一の優雅な都市であり「平原の女王の都市」ともいわれ美しい街である。そして今回のフェスティバルが開催されたデンバー大学は、一八六四年開校の名門私立大学で、広大な敷地と歴史ある建造物を有し、世界中から八千人に及ぶ学生が多岐にわたる学課を学んでいる。今回も数多くの学生が、ボランティアとしてこの日本伝統文化祭を手伝ってくれた。

かつてミシガン大に主人が学び、その後デンバーで子供たちと授業をしてきたことがある。帰ってきた主人は、永住したいと本気で言ったことがある。広大な土地、のんびりした周りの景色、自分したい仕事がだれにも気がねなく出来る環境。生前話していた主人の言葉を思い出している。
津軽の匂いが全身にしみついている私だが、これからも大いに世界へ向かって文化交流に努めたいと思っている。
(平成6年12月16日 陸奥新報 掲載・1部抜粋)